発生のバイオメカニクスに関する研究
シリアルセクショニングによるアフリカツメガエル胚形状の3次元計測と刺入法による胚内部の張力分布の推定
【研究背景】
生物は,発生過程で細胞の分裂,移動,形態変化を繰返し,その種固有の形態を獲得します.
この過程には,生化学因子のみならず力学因子が大きく影響することが指摘され始めています.
内部の応力推定では固定胚の切断による方法が採られていましたが,新鮮胚での計測は良好な切断面取得を妨げる組織の流動性などの問題がありました.
また,レーザーアブレーション法による計測は,その計測範囲が表層に留まっており,胚全体の力学的な環境を推定するのに十分とは言えません.
そこで,新鮮胚でも組織が崩壊せず,計測範囲が内部に至る力学場の推定手法が求められています.
また,本研究室で発生のバイオメカニクスで使用している,アフリカツメガエル原腸胚は不透明な直径1.4 mmの球形状であるため,通常の光学顕微鏡では内部構造の観察は困難です.
特に内部に変形を伴う原腸胚の構造を定量的に計測できる観察系が求められています.
【研究方法】
不透明なアフリカツメガエル原腸胚の内部3次元構造を取得するためには,シリアルセクション法に基づいた凍結切片の厚さ10 µmの薄切とその断面画像を自動で取得する観察系を構築しました (図1).
新鮮胚が崩壊しない程度の比較的低侵襲な残留応力解放の方法として,針で穿孔することを行いました.
引張がかかっている部分では,針径よりも孔は大きく広がり,圧縮がかかっている部分では,反対に孔は小さく開く,その程度によっては開かないことが考えられます.
この推定理論を,テーパーのついていない針で組織複数層を貫通することで層ごとの引張・圧縮を判別しました.
【結果】
連続断面画像から図3−2のような胚の3次元形状を再構築しました.
原腸胚内に存在する内腔は扁平な3次元の形状をしており,今後この3次元データから,その体積や曲率などの形状の定量化を行うことができます.
針で穿孔した方向と平行な断面を観察した結果の1例を図3−3に示します.
開きの大きさと使用した針の径との比較から,黒く見える表層では引張を負担しており,白っぽく見える内層では圧縮を負担していると推定されました.
また,発生の進行に伴い,圧縮する層の遷移を示唆するデータも確認されました.
図2 アフリカツメガエル原腸胚 (Stage 13)の3次元再構成の結果.