名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻/機械・航空宇宙工学科 バイオメカニクス研究室へようこそ!

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人工関節・インプラントのバイオメカニクスに関する研究

1)インプラント‐骨境界の力学的固定の解明(村瀬准教授)

【研究の背景】
 骨と人工材料の直接固定(オッセオインテグレーション: Osseointegration)は,歯科インプラントや義肢などへの応用が広がっています.その固定のしくみについては完全に解明されていませんでしたが,Removal Torque Testと呼ばれる生体組織の固定性を力学的に測定する試験によって,人工材料の表面正常が固定性に大きく影響していることがわかってきました.
この研究では,有限要素シミュレーションにより,Removal Torque Testの結果を再現し,強固な生体固定性を持つインプラントの開発をおこなっています.

図1-1 オッセオインテグレーションの例

【研究内容】
 電子顕微鏡で得られた人工材料の表面性状を単純化・模式化したマイクロスケールのシミュレーションモデルを作成し,生体骨と接触した際の抵抗力を推測するシステムを開発しました.しゅう動にともない,生体骨は微小な変形,破壊を起こすことで発生する抵抗力の推移が,模擬骨を用いたRemoval Torque 試験の結果と一致することが示されました. よりオッセオインテグレーション固定が強固になる表面デザインをもつインプラントの開発を目指し,海外の研究機関と共同研究を行っています.

図2-2 インプラント表面の表面性状と,コンピュータシミュレーションモデル

図2-3 シミュレーションの推移.骨が硬いインプラントのしゅう動により変形・破壊されていく

2)関節内を伝達する衝撃荷重機構の解明(村瀬准教授)

【研究の背景】
 高齢者の変形性膝関節症に対して有効な治療法である人工膝関節置換術(通称TKR)は,曲がりにくくなった骨を切除し人工膝関節に取り換え,歩行機能を回復させる手術です.現在国内で年間8万例以上の手術が行われています.
しかし,人工材料の境界部分の骨は年月とともに失われてしまい,耐用年数は最大15~20年と考えられています.
この研究では.歩行時のつまづき,踏み外しなど不意の衝撃が与えられたときに関節内を伝達する荷重を有限要素シミュレーションで調査し,歩行時の膝の内外反(O脚やX脚など)の影響や,人工関節コンポーネントのデザインの開発を行っています.

図2-1 人工膝関節の例

【研究内容】
 これまでの生体のコンピュータシミュレーション(有限要素法)では,複雑な形状輪郭を維持したまま,さまざまな角度に自由に骨をカットしたり,解析の精度にあわせて自由に細かいメッシュに切り替える必要がありました.この研究では,新たに生体形状に特化した新しいメッシュ生成技術を開発し,骨切り角度の違いによる衝撃荷重伝達の調査が可能にしました.

図2-2人工関節コンポーネントと,脛骨との接合.コンポーネントのメッシュ形状はそのままで,脛骨部分のみ任意の細かさで要素分割できる技術を開発しました.

【研究結果】
 脛骨コンポーネントを膝関節の変形方向に傾けて取りつけることで,内反,外反状態のどちらの場合でも,応力集中の緩和がされることが確認できました.従来臨床でおこなわれている骨切り角度の変更には,衝撃荷重負荷時における衝撃集中を緩和する効果が期待できます.
現在は手術前の機器の性能評価だけではなく,術式の影響(取り付け方の違い)を考慮することで,生体内に埋め込んだあとの耐久性の予測を可能にすることに取り組んでいます.

図2-3 衝撃荷重が膝を伝達するときの応力分布.