名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻/機械・航空宇宙工学科 バイオメカニクス研究室へようこそ!

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発生のバイオメカニクスに関する研究

発生過程のアフリカツメガエル胚内応力分布の変化の推定

【研究方法】
 発生研究で良く使われるアフリカツメガエル (Xenopus laevis, 図1) を対象とし,Stage 10-13という発生段階の胚 (図2) を用いました.この段階は卵がオタマジャクシになる発生の初期で,胚内部で原腸陥入と言う極めて大きな形状変化が生じます(図3).この変形で,胚の一部が大きく内側に捲くれ上がり,外胚葉・中胚葉・内胚葉という3つの組織からなる層状の構造が作られます.我々はこの大きな形態変化の過程における胚の内部の変形と力学場の変化に着目しました.

図1.Xenopus laevis

図2.Xenopus laevis の胚

図3.Xenopus laevis 胚Stage 10-13断面

 力学場の計測原理を図4に示します.残留応力を有する弾性体を切断すると,応力解放により変形が生じます.この原理から,胚の内部に引張や圧縮がかかっていると仮定した場合,その断面では引張られていた部分が陥凹し,圧縮されていた部分が突出すると考えられます.従って,この切断面の形状と組織の力学特性を計測すると胚内部の応力状態が推測できると考えられます.

図4.計測の原理

 そこで,まず胚を切断し,その断面の凹凸を調べることにしました.胚は極めて脆いのでそのまま切断して断面を観察することはできず,ホルマリン固定あるいは液体窒素で凍結した上で切断し,断面を高さ計測機能つき実体顕微鏡で焦点面をずらしながら撮影してその凹凸を求めました.
【研究結果】
 代表例を図5に示します.断面の画像 (各図左側)と断面の凹凸 (各図右側) 比較すると判るように,外胚葉が他の組織よりも凹んでいます.この高低差を定量的に評価したところ (図6), 外胚葉領域は中・内胚葉領域より凹んでいること,その差が発生の進行とともに変化することなどが分かりました.また,ホルマリン固定法と凍結切断法という異なる実験方法から得た結果に同じような傾向が見られたため,これらの結果は実験方法に起因するものではなく,胚を切断することで生じた応力開放によるものであり,発生過程で胚内の変形に伴い力学場が変化していることが示唆されました.今後はさらに組織の力学特性を計測し,計算機解析を行うことで胚内の応力を定量化し,正中断面だけでなく3次元的に計測・解析することで胚の形態形成運動と力学メカニズムの関係の解明が期待されます.
【基礎生物学研究所・上野研究室との共同研究】

図5.ホルマリン固定法と凍結切断法で得たXenopus laevis 胚断面の外観と凹凸(Stage 10および13)

図6.Xenopus laevis 胚の正中断面における外胚葉と中・内胚葉の平均高さの差(Stage 10-13)