名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻/機械・航空宇宙工学科 バイオメカニクス研究室へようこそ!

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皮膚のバイオメカニクスに関する研究

2)三角吸引孔を用いたピペット吸引法による軟組織弾性率の深さ方向分布計測 

【研究の背景】
 皮膚のように表面から内部に向かって硬さが変化する組織の弾性率分布を表面から1回計測しただけで明らかにするために,ピペット吸引法を応用した計測方法の開発を進めています.ピペット吸引法では試料表面から吸引孔径と同じ深さまでの平均的な弾性率が計測されるため,様々な径の円孔で吸引することで,試料の弾性率の深さ方向分布を計測することができます(図2-1).
 しかし,円孔を用いると,何度も吸引孔を変える必要があります.そこで,吸引孔に三角形を用いることで,様々な孔径で吸引した場合と同じように試料の弾性率分布を推定することができるのではないかと考えました(図2-2).

図2ー1.ピペット吸引法で弾性率を計測できる深さと,それを利用した2層モデルの弾性率分布の計測

図2-2. 円孔と三角孔の関係を表した概念図
【研究内容】
 ○計算機解析による推定方法の確立(2007~9,宮野 真一)
 まず計算機解析により,表面と内部の硬さの差が吸引量分布にどのような影響を与えるのか調べました.すなわち,厚みh,弾性率Etの表層が弾性率Ebの母層の上にのった2層モデル(図2-3)を三角孔で吸引した際の,三角形吸引孔の対称軸上の吸引変形量分布を様々なEt,Eb,hの組み合わせに対し有限要素法で計算しました.計算した吸引量分布の例を図2-4に示します.Et,Eb,hの変化に応じて,吸引量の分布が変わることを確かめ,推定方法を確立しました(特願2009-254316).このような吸引量の分布からEt,Eb,hを推定した例を表2-1に示します.弾性率分布を推定した64種類の2層モデルのうち,61例のモデルではEt,Eb,hの推定誤差が20%以内となりました.

図2-3.2層モデル

図2-4.母層弾性率Ebのみが異なる2層モデルの吸引量分布

表2-1.有限要素法で計算した解析2層モデルの吸引量分布から推定したモデルの弾性率分布

 ○吸引装置の試作と物理的2層モデルを用いた検証(2010,鈴木 辰憲)
 上で述べた推定方法は実際の計測によっては検証されていないため,三角吸引孔を有する吸引式の 弾性率計測装置 (図2-5) を試作し,表層をシリコーンゴムで,母層をポリウレタンで作製した物理的2層モデルに対する吸引試験を通じて力学特性の推定を行いました.その結果,数値の傾向の大雑把な判別はできたものの,定量的には推定値と計測値の間に無視できない大きな開きがありました.これは三角吸引孔の頂点付近の変位を精密に計測できないことが原因であることが判りました.今後は推定方法の改良や吸引孔形状の変更を予定しています.

図2-5.装置の概略図と吸引孔形状