名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻/機械・航空宇宙工学科 バイオメカニクス研究室へようこそ!

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細胞のバイオメカニクスに関する研究

重層化したMC3T3-E1細胞への繰返引張により誘導される細胞配向

研究背景
細胞を弾性基板上で培養し,基板に繰返引張を加えると,条件に応じてアクチンフィラメント(AF)が引張方向や引張に直交する方向など特定の配向を示すことが知られている.しかしこれらは単層培養された細胞に関するものであり,生理的により重要と思われる重層細胞についての研究は我々の知る限りまだない.そこで,重層した細胞に繰返引張ひずみを負荷した際の変化を観察した.
実験方法
試料にはマウス頭頂骨由来骨芽細胞様細胞MC3T3-E1を用いた.これをシリコーンゴム膜上で重層培養し,繰返引張ひずみを負荷した(0〜24時間).その後,試料を固定してAFを染色し,上層と下層の細胞それぞれについて2次元FFTで配向を解析した.この際,直交配向度(RA)を以下の式(1)のように定義し用いた:
RA ≫ 1の場合,細胞は引張と直交方向に配向,RA ≪ 1の場合,細胞は引張方向に配向する傾向が強いことを示す.
実験結果
  24時間の繰返引張により,上層は通常の単層培養と同様,引張と直交する方向に配向し,下層は引張方向に配向した(図1).直交配向度の時間変化(図2)から,繰返引張を負荷された重層細胞は,下層から引張方向へ配向を開始し,12時間程度で引張方向への配向を強く示し,その後安定した.上層では負荷時間が12時間以内の場合,下層の細胞同様,引張方向に配向を示し,その後,引張と直交する方向に配向し始め,24時間の繰返引張ひずみ負荷培養により上下それぞれの層の細胞は互いに直交するように配向することが判った.

図6 図1 24時間の繰返引張負荷後の細胞配向.
(a) 上層の細胞 (b) 下層の細胞 
スケールバーは50 µmで,引張方向を示す.

図2 直交配向度の経時変化

考察
  単層のMC3T3-E1細胞は12時間の繰返引張負荷により引張と直交方向に配向する.重層細胞の場合,上層が当初引張方向に配向するのは下層の細胞の移動に従ったためかも知れない.そして,その後,直交方向に配向を変えるのは,上層細胞にひずみが伝わるのが,負荷開始後12時間で下層細胞が配向した後なのかも知れない.
単層培養と重層培養では細胞が全く違う応答を示すことが明らかとなった.今後,重層細胞についての知見を積み重ねる必要がある.