名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻/機械・航空宇宙工学科 バイオメカニクス研究室へようこそ!

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細胞のバイオメカニクスに関する研究

細胞内微細構造の3次元観察に関する研究

研究概要
 細胞は生体組織を構成している最小単位で,様々な生命現象がその機能によって維持されています.
 細胞内には様々な微細構造が存在しています.例えば,細胞核やミトコンドリアなどの細胞内小器官や, 細胞に3次元形態を与えている細胞骨格と呼ばれるアクチンフィラメント,微小管,中間径フィラメントが挙げられます. 細胞核は,遺伝情報を複製,転写し,細胞の様々な機能を調整しています. また,アクチンフィラメントは,ちょうどテントのロープのような役割で細胞の形態を維持したり, 細胞の移動などに深く関与し,微小管は細胞内の物質輸送のレールの役割をしていると考えられています. さらに最近では,これらの細胞骨格にそれぞれ,張力,圧縮力が作用していることが明らかとなってきました. このように,細胞内微細構造のそれぞれの要素には,張力や圧縮力が3次元的に作用していると推測され,細胞内微細構造の3次元的な配置や,それぞれの要素に働く力の分布を知ることは,細胞の機能や細胞の力学的適応メカニズムを解明するためには極めて重要であると考えられます.
  細胞内微細構造を3次元的に観察するために,現在では,共焦点顕微鏡を用いた方法が普及しています.これは,試料を厚み方向に焦点面をずらしながら複数枚の断層画像を撮影し,それらを重ね合わせることによって,3次元再構成を行います.しかし,この方法では,試料の厚み方向の分解能が焦点面内の分解能に比べ乏しいため,断層間の情報が欠落し,細胞内微細構造の3次元形態を詳細に観察することは困難です.
 そこで,当研究室では,細胞把持回転観察システムの開発を行っています.これは,顕微鏡下で直径10 μm程度に加工したガラスマイクロピペットで細胞表面を吸引,把持し,顕微鏡光軸と直交する軸周りに回転させることで,様々な方向から等しい分解能で観察することができるものです (図1, 2).そして,様々な方向から観察した像を元に,医療用X線CTの原理を応用した方法を用いて3次元再構成することで,任意の断面を観察したり,細胞内微細構造の3次元モデル化することができると考えられます.

図1.回転観察法の概要.顕微鏡下で細胞を把持し, 顕微鏡光軸と直交する軸周りに回転させることで各方向から等しい分解能で観察することができる.さらに,各方向からの画像を元に3次元再構成することで,細胞の任意の断面,3次元モデル化が可能.

図2.細胞把持回転観察装置,軸受に空気軸受を採用することで,細胞把持用のピペットのスムーズな回転,高精度な位置決めをすることが可能.

研究内容
 従来までは,様々な方向から撮影した像を元に3次元再構成を行っていたため長時間の撮影が必要でした.そこで,共焦点レーザ顕微鏡で直交する2方向から断層画像を撮影するだけで,ほぼ正確に3次元再構成することができるアルゴリズムの開発を行い,細胞骨格の3次元再構成をすることができました (図3). 以上のことは,短時間の撮影で3次元再構成することができるため,細胞分裂などの経時変化を3次元再構成することが可能になるのではないかと考えられます.

図3.新たに考案した再構成アルゴリズムでブタ血管新鮮単離平滑筋細胞のアクチンフィラメントを3次元再構成した画像.