骨・珪藻のバイオメカニクスに関する研究
珪藻3) 珪藻Aulacoseiraの成長における被殻形状のロバスト性に関する研究
【新しい被殻の太さがあまり減少しないのはなぜか】
珪藻は弁当箱のように上下2つの被殻に包まれた構造をしており(図3-1 a),細胞分裂の時にはその間に新しく2つの被殻が形成されます.
この時,新しい被殻は母細胞の被殻の内で形成されるため,外径が被殻の厚さ分だけ小さくなると考えられますが(図3-1 b),その減少量は小さく抑えられます.
この謎を解明するために,細胞分裂によって成長している珪藻細胞の長さと太さを連続的に測定し(図3-2 a),その変化を観測しました.
その結果(図3-2 b),細胞が伸長すると同時に太さが減少し,新たな被殻が形成されると同時にその太さが回復する,という傾向が観察されました.
これは珪藻が新たな被殻形成に向けてその太さを維持するメカニズムを有しているためと考えられます.
図3-1 (a) 珪藻被殻の形状 (b) 新たに形成される被殻の概要図
(a: 珪藻の世界,https://www2.u-gakugei.ac.jp/~mayama/diatoms/frustule.htm,
b: Kaczmarska & Ehrman, 2021)
図3-2 (a) 珪藻の太さ変化計測方法 (b) 計測結果
【曲げても折れずに伸長できるのはなぜか】
Aulacoseiraは相当な曲げ負荷条件下でも折れずに伸びることがわかりました.
また,圧縮負荷培養により,珪藻細胞内には高い静水圧がかかっていることが示唆されました.
本研究では,3点曲げ試験による材料パラメータ同定とそれを模擬した数値解析を行うことで,
Aulacoseiraの持つ成長過程の曲げ強さと,細胞内の高い静水圧との関係を調査しました.
まず,ガラスピペットをカンチレバーの要領で用いることで荷重を計測可能な,珪藻の3点曲げ試験系を構築しました(図3-3).
得られた試験結果より,珪藻被殻を一様な円筒体とみなした時のヤング率を算出しました.結果,珪藻被殻ヤング率は0.7 GPaとなりました.
これは一般的なガラスのヤング率70 GPaと比較すると1/100の大きさですが,被殻以外を含む珪藻全体の試験結果であることに加え,
被殻の微細な穴が幾何学的に配列している構造が影響していると考えられます.
3点曲げ試験を模擬した数値解析(図3-4 a)では,珪藻を模擬した円筒体の内圧を大きくすると破断荷重が大きくなるという結果を得ました(図3-4 b).
これにより,珪藻の高い静水圧が,成長過程における曲げ強さに影響していることが示唆されました.
図3-3 (a) 珪藻の3点曲げ試験系 (b) 試験の実際の様子
図3-4 (a) 数値解析モデル (b) 内圧条件を変更し解析した結果