骨・珪藻のバイオメカニクスに関する研究
珪藻2)Aulacoseiraの力学負荷下の被殻伸長に関する基礎的研究
Aulacoseiraは曲げモーメントがかかった状態でも伸びることが判りました.
これはちょっと考えると不思議な現象です.
つまり,珪藻の被殻(ガラス質)が伸びる際に,ガラスがそのまま伸びることは考えづらく,伸びる部分を,一旦,ガラス質から柔かい素材に置き換えて伸長して,それからガラス化すると考えられます.
そうすると柔らかい部分ができたところで,その部分が折れてしまうことが予想されます.
なぜこのような現象が起こらないのか,まず,珪藻の圧縮負荷培養をして珪藻の内圧を推定し,その後,珪藻が伸長する際の形態変化を詳しく調べました.
【珪藻の圧縮負荷培養】
図2-1に示すように珪藻に圧縮負荷を加える実験系を考案し、珪藻がどれくらいの大きさの圧縮を受けても伸展するのかを調査しました.
狭隘部を有するガラスピペットで珪藻を吸いこむことで珪藻の位置を固定し,他端を先端径5µm以下のピペットで押し当てることで珪藻を圧縮しました.
培養の結果,珪藻は13.6 µNの圧縮力を受けても伸展することが分かりました.
大きな圧縮を受けても伸展した理由として,珪藻細胞内の高い静水圧が関係あるのではないかと考えられます.
この伸長力が細胞内の静水圧で生み出されると考えるとその圧は200 kPaであることが判りました.
我々の血圧が15kPa程度ですので,その10倍以上の大変大きな圧力です.
【珪藻の被殻形態の調査】
珪藻の被殻形態を詳細に観察することで,被殻形成の過程を調査しました.
珪藻の被殻を走査型電子顕微鏡で観察するためにパイプ洗浄剤で処理したところ,珪藻は残留応力を受けるがごとくバラバラになり,厚い殻の両端に薄い殻がついている被殻と厚い殻のみで構成されている被殻があることが分かりました(図2−2).
それぞれを走査電子顕微鏡で観察したところ,両端に薄い殻がついていない被殻の表面に胞紋がはっきりと観察されました(図2−3).
厚い殻は二層の薄い殻で覆われており,薄い殻同士滑り合うことでスペースが生まれ被殻が形成されるのではないかと考えられます.
これによって珪藻は曲げモーメントが負荷された状態でも折れずに伸長できるのかも知れません.