名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻/機械・航空宇宙工学科 バイオメカニクス研究室へようこそ!

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血管のバイオメカニクスに関する研究

大動脈の力学特性・平滑筋収縮特性の周方向不均質性の解析

研究の目的と背景
 血管壁には平滑筋細胞が存在し,円周方向に配向しています.この平滑筋細胞は,自発的に収縮・弛緩することで血管径を調節するなど血管壁の力学に重要な役割を果たしていることが知られています.
ところで,胸大動脈など直管状の血管はその形状がほぼ厚肉円筒管と見なせるために,その力学特性は円周方向に一様であると考えられてきました.ところが最近,ウサギの胸大動脈について,その背側(背骨に面している部分)に比べて腹側(胸腔内を向いている部分)の方がずっと膨らみやすいということが明らかになって来ました(杉田ら:日本機械学会論文集A編 69-677, 43-48, 2003).
すると,この平滑筋の収縮にも背側と腹側で違いがあるかも知れません.そこで本研究では,平滑筋の能動収縮が背側と腹側で異なるのかどうか明らかにするために,対外に摘出したウサギの胸大動脈に平滑筋収縮薬を投与した際の血管壁の収縮量が腹側と背側で違うのか調べました.また,腹側と背側の血管壁から平滑筋細胞をそれぞれ単離し,細胞レベルの収縮特性に違いがあるかどうかについても調べました.
研究方法
図1に実験装置を示します.摘出したウサギ胸大動脈の円筒状試料を実験装置に取り付け,内圧を負荷した際の内圧と外径の関係を求めます.この時,目印として試料に周方向を4等分するように針を刺しておきます (図1右).加圧に伴う針の変形を調べることで,血管壁のどの部分が膨らみやすいのか調べることができます.そして,生理的内圧に保った試料に平滑筋収縮薬(ノルアドレナリン)を投与することで平滑筋を収縮させ,この際に血管壁のどの部分がどの程度収縮するのかを調べました.その後,血管壁の腹側と背側の平滑筋細胞を酵素法を用いて別々に単離し,これに同様にノルアドレナリンを投与して,単離した細胞レベルでの収縮に違いがないか,調べました.

図1 実験装置(左)と血管壁への針の指し方(右)

研究結果・考察
内圧と外径の関係を図2に示します.背側に比べて腹側が膨らみやすいことが判ります.図3は生理状態での平滑筋収縮に伴う血管壁変形量を計測した結果です.腹側の収縮率よりも背側の収縮率の方が有意に小さいことから,周方向に不均質性があることが判ります.さらに,血管から酵素を用いて単離した平滑筋細胞の収縮特性を調べたところ,腹側の細胞が背側よりも収縮率が大きく,細胞の収縮に関連するタンパク質(アクチンとミオシン)の量も多いことも判りました.
図2より判るように,胸大動脈は腹側の方が心拍に伴って大きく伸び縮みします.このことにより,血管壁内部の平滑筋も腹側で大きく伸び縮みさせられる,すなわち腹側の細胞の方が背側の細胞より強い力学刺激を受けているはずです.このような力学的刺激の大きさの差によって平滑筋収縮能に差が現れたと考えられます.今後はこのような胸大動脈の力学特性・平滑筋の収縮特性の差が,大動脈の生理的機能の維持,動脈硬化や大動脈瘤の発生・伸展にどのように関与しているのか調べていく予定です.
  • 図2 内圧と外径の関係(杉田ら,日本機械学会論文集A編,2003)

  • 図3 区間収縮率の比