名古屋大学 大学院工学研究科 機械システム工学専攻/機械・航空宇宙工学科 バイオメカニクス研究室へようこそ!

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血管のバイオメカニクスに関する研究

動脈硬化早期診断のためのFMD検査法と検査時間の短時間化

研究背景と目的
 動脈硬化が引き起こす疾患の早期発見に有用な検査法の一つとして,血管内皮機能を評価するFMD (Flow-mediated dilation) 検査法があります.FMD検査法はカフを用いて前腕の血流を5分間駆血後,再灌流した際の血流増大による壁せん断応力の上昇により生じる血管拡張物質(NO)の産生量を血管拡張量として見積もる検査法です.しかし従来のFMD法では用いられる検査装置が高価であることや専門の知識や技術が必要であることに加えて,医療機関での月1回の計測に限定されるという現状があり,必ずしも動脈硬化の早期診断に有効ではないという課題があります.一般家庭での毎日計測を可能にするために,手首手背側における血液容量を計測する腕時計型装置を開発しました(図1).この装置はLED式反射型脈波センサを搭載しており,反射光から計測部の血液容量変化を計測します.本装置により計測できる反射光信号と従来のFMD法を比較し, %FMDと関係の深いパラメータを探索しました.

図1 製作した腕時計型装置

研究方法
 図2は腕時計型装置および従来FMD法の同時計測実験の実験系です.腕時計型装置を手首手背側に,FMD検査装置の超音波プローブを上腕に設置し,前腕に巻いたカフで5分間駆血を行い,駆血前後での手首血液容量および上腕動脈血管径変化を同時に計測しました.

図2 同時計測実験の実験系

研究結果
 図3は腕時計型装置によって得られたデータをフィルタ処理した結果です.血液量に相当する信号に対して,移動平均フィルタを適用した非脈動成分(DC値)およびバンドパスフィルタを適用して得られた脈動成分に対して波高を計算したAC値を算出したところ,駆血解放後よりDC値は2つ,AC値は1つのピークを取りました.これらの駆血前からの変化率や駆血解放後からの時間をパラメータとし,%FMDを推定に使用しました.

図3 反射光信号解析方法

 腕時計型装置から得られたパラメータおよび被験者身体情報の組み合わせを選択して説明変数とした重回帰分析を行い,%FMDの推定式を導出しました.推定式導出に使用していないデータに対する推定精度を検証するために得られた全データのうち20代被験者の一部で推定式導出を行い,その他のデータを式に代入して%FMDの推定値を算出し,実測値と比較しました.図4はデータの解析のフローチャートを示します.

図4 データの解析のフローチャート

 図5は%FMDの推定値と実測値の比較を表しています.20代被験者のデータの方がより高齢な被験者のデータよりも推定精度が高いことが示されました.このことから,年代別に推定式を導出することで,%FMDの推定精度の向上につながる可能性があります.

図5 %FMDの実測値と推定値の比較